薄暗いデンパサールの空港に降りたったのは80年代半ば。タラップを降りるとプルメリアとガラム(たばこ)の入り交じった匂いに包まれた。
宿泊するホテルの予約をしていなかったのでインフォメーションへ向かうと、でっぷり肥えた女性が手持ち無沙汰に座っていた。彼女おすすめのレギャンに新しくできたプールサイド・ヴィラに決め、早速オンボロタクシーでホテルに向かう。高い建物もないし街全体の薄暗い照明で家人(結婚前)は不安そうだった。
ホテルに付くと1泊20ドルにしてはちゃんとしているし、インフォメーション・センターでもらったクーポンも有効だった。
翌日、アグーンのレストランへ行きオムレツをいただき、ホテルへ戻るとプールの水のきらめき、太陽や木々のささやきがとても美しく身体に染み渡る。
夕刻前、アグーンを呼び出し「タナロット」の夕日を見たい。と言ったら顔色が変わり「行くならすぐ用意して、間にあうかどうかわからない」と慌ててタクシーをチャーターしに行く。
急いでカメラなど用意してタナロット寺院に向かった。現在と違い、大型バスが行き交うような道は島内のどこにもまだできてなく、舗装道路もでこぼこだった。
案の定、着いたときは真っ暗で観光客含め誰ひとりいない。「間にあわなかったね。また来るね」とタクシーの運転手に「飛ばせ!飛ばせ!」とハッパをかけていたアグーンと3人砂浜に横になり見たこともないたくさんの数の星を眺めていたら、下部は海に洗われているタナロット寺院の上から一人の僧侶が降りてきた。
それを見たアグーンは砂浜を全力疾走で近寄り、金属フェンスでできた扉を閉めている僧侶にこちらを指差し何事かを交渉している。僧侶はついにオイラたちを手招きで呼び、扉を開き寺院のなかへ招き入れてくれた。
オイラたちはサロンも巻いていないしTシャツ姿なのでちょいと遠慮気味だったが、アグーンのいつものひと言「ノー・プロブレム」
最上階の本殿?まで上がり家人と2人、満天の星空のなかアグーンの立ち会いのもと僧侶に祈りを捧げてもらい聖水を振りかけていただいた。
帰りがけアグーンに『なんて言ったんだい」と聞くと唇に人差し指を当て、にこにこ笑っていた。
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